
房総のダムで成立していた真冬の釣りが他の場所でも通用するのか…。
もしかしたら他にも低水温でも元気なバスが居る場所があるのではないか…。
しかも極寒期特有のパンパンでグッドコンディションの魚体のバスが…。
そんな想いをずっと抱いていた。
その想いを実現させるため今回、真冬の遠征に踏み切った。
遠征先、しかも初めての場所で房総と同じようなことが起きうるのか…。
知りたい、確かめたいという衝動に強くかられていた。
真冬は房総だけだなんて…。本当にそうなのだろうか。
では、他の場所は…。色んな人に聞いても先ず無いでしょうとの返答。
日常でもその疑念や想いが湧き起これば日本地図とにらめっこ。黒潮の影響する地域を勝手に決めつけ妄想する。その場所の標高、水辺や岩肌に生える草木を思い起こしまた妄想。
更に自分の中で真冬の釣り旅の構想が膨らみ始める。釣れるかなんて全くわからない。
正月にブラックバスの遠征とか殆ど狂痴の世界。愚行の極み。お馬鹿のすることだろう。確信のないことなのだから。普通は。
でも自分で確かめなければ納得できない面倒な性格なのだ。
防寒対策には自信がある。人に勧められるほどに。今のところ、突然のモンスターにも耐えられるであろうタックルバランスも確立してきたつもり。
来たるチャンスをものにするための努力もしてきた。
あとは実際にチャレンジするだけだ。
今回、そんな愚行な想いに共感し賛同してくれたのは星子くん。そして二人でこの計画を進め実行した。
もちろん、一人でも行くつもりだった。
もしも一緒に行って散々だった日には同行者には申し訳が立たないからだ。
けれども一人よりも二人の方が色々と助かるのも事実。結果が得られるのも早い。自分のスタイルと近いものがある星子くんは打って付けの人物だ。有り難い。
みんなが口を揃えて言うように真冬は全然ダメだったら行かなかったことにしようとも正直思っていた。
けれどそう言う訳にはいかないほど自分達でも驚きで驚愕の結果となった。
事は3日の今年の初フィッシュから始まった。
翌日も朝一番から検証開始。
昨日の魚が唯一のモチベーション。風も無く水面からは一面、靄が立ち込める。温度差が激しい証拠。タックルボックスに着いた水滴は見る見るうちに凍りだす。
もちろん、ガイドも凍る。ラインが傷つかないように水にロッドを突っ込み解凍しながら釣り進む。
そんなキンキンに冷えた空気の中、星子くんから連絡が入る。
開始1時間くらい経った頃だろうか。
「特大です」と。
やった。真っ先にそう思った。
今思うと静かに発せられた星子くんの声はいつもとは違って震えていたように思う。
まだサイズは測っていないようだ。
場所を聞き直ぐに向かう。
周辺に着いても赤いカヤックを直ぐには見つけられないほど靄が強い。
迷っている自分に星子くんから大声がかかる。発見。合流。
いよいよ。
神懸かったそれは自分の前にも姿を露わにした。

…驚愕。
衝撃的な魚。
…嘘でしょ?
引くほどでかい。
様々を震撼させるに十分なバス。
初場所。1月。水面で食わす。
やった。理想が現実に。

スケールに載せる。64cmの紛れもないモンスター。
事件だ。
震える手。当然だ。
彼自身、初のロクマル。
目の当たりにさせてもらった。
この事件に賞賛する適切な言葉…見つからないほど痺れた。
ファインダー越しの怪物に驚嘆。
ルアーは試しに使ってもらっていた最終段階の
celldivisionのMサイズ。
自分の作ったルアーで夢のような事が起こったのだ。
ありがとう。本当にありがとう。
よし、今度は俺の番だ。
そう誓い別れた。
先程までやっていた場所まで戻り釣り再開だ。64cmが脳裏から離れない。ずっと居座る。切り替えられぬまま本気で釣り進む。
インターセクション少し上流、障害物で水が巻き淀みそうな場所。そんな場所で衝撃的な60upから30分程で自分にも暴力的なバイト。
キャトルの3+が見たこともないほどの弧を描く。
ロットよ、耐えてくれ。
ドラグは最初からフルロック。
カヤックなので糸は1ミリも出さない。
その為のロングリーダーだ。
何度も伸されそうになるがいなし耐える。
水面では暴れさせたくない。
シーバス用のネットを突っ込み一気に掬う。
獲った。やってやった。

ブリブリの56cm。
直ぐに星子くんに連絡。
特大サイズには到底及ばないが理想的なコンディションのバスだ。

釣りの神様ありがとう。
64cmに続きこのコンディションの56cm。
2人の想いが成就したのだ。
何度でも言う、ありがとう。
その後、一旦上がり午後、別の場所でやるもパッとせず。この日はこれで終了。
次の日も朝から検証。
こっちの場所の方が水は澄んでいる。関東に比べるとどこもかなり透明度が高い。クリアレイクに翻弄され続けるもどこかの物陰に潜みバイトしてくると信じ投げ続ける。

で、やっと釣れた。47cm。
もうこのサイズでは満足できない。
またまた午後場所を変えて釣り込む。
しかし、またパッとせずこの日も終了。
とうとう真冬の遠征最終日。
そして、残された時間は午前中のみ。今回の釣り旅で一番の実績場所を時間が許す限り打ち続ける作戦に。
64cmと56cmをまぐれで終わらさない為にも、無駄に終わらせない為にもここはもうやるしかない。
朝一番の感じはあの怪物達に襲われた状況と似ている。
否応無しに期待が高まる。
互いの健闘を祈り、それぞれ想いの場所に艇を進める。
開始程なくしてバイト。今が真冬とは思えないプラグへのアタックだ。 水深がある為か真下へゴンゴンと突っ込む。
この魚もよく引いた。

ヒレピンの綺麗な魚。
更に確信へと近づいた53cm。

まん丸な体型。果たして餌は何だろうか。
真冬でも元気な個体はこうして餌を食っている証拠。上手くタイミングを合わせられれば可能性はあると思うのです。一口にタイミングと言っても様々だけども。
まだ時間はある。有効に使いたい。
更に大物目指して、まだ打っていない所まで小移動。
岩盤好きには見逃せないポイント。こちらの雰囲気も良さそうだ。
小刻みにゆっくりと攻める。
深い所から誘い出すようなイメージで。
魚に嫌われないように慎重に。
しかし、臆することなく。
攻める気持ちが弱いアプローチは駄目だ。
そのルアーがもつ最大限のアクション、ポテンシャルで。
で、2回目のバイト。
引きからして期待していた魚ではなさそう。
余裕を持ってランディング。

1cm足りない49cm。

それでもグッドコンディションだ。
このストレッチまだ釣れそうな雰囲気。信じて釣り進む。
同じく臆することなく攻める。
予感は当たった。3回目のバイトだ。
この魚のバイト、今までのものとは少し違った。
なんと追尾してきたのだ。
ルアーの後方に、茶色く大きな陰があることに気付く。
そのまま一定のスピードで巻き続ける。
ずっと着いてくる。
もうカヤックとのディスタンスがない。
どうすることも出来ず止めてみた。
すると魚もピタッと止まった。
ここで反転したら終わり。
ルアーは魚の目と鼻の先。
すかさず鋭くトゥイッチを入れる。
それと同時に堪らずバイト。
丸見えのバイトシーン。釣った感最高潮。
真冬にこの食い方かっ。
勉強になった。
そして、またこの魚もよく引いた。

53cmあった。
御多分に洩れずグッドコンディション。ヒレも体も綺麗な魚だ。

そして、この魚を最後に2人の無謀な釣り旅は想像した以上の好成績で幕を閉じた。
何とか64cmと56cmをまぐれで終わらさないで済みそうな結果に繋がったと思う。
何はともあれ、星子くんの特大ブラックバスには本当に感動した。
自分で作ったルアーで釣るのは当たり前。意図があり、当然、必要性を感じて作っている訳だから。
自分には他の人が作ったルアーでここまで釣る自身が正直ない。
その事を踏まえても64cmは本当に凄いことだ。
素晴らしいものを見させてもらった。ありがとう。

今回、訪れた方面やダムのポテンシャルの高さを改めて実感した。
自分達からしたら釣ってやった感はある。しかし正直、釣れちゃった感も否めない。だからもうこんなことは二度と起きないと思い感謝を忘れない。
そして、この喜びを深く実感したい。
まだまだ検証しなければならないこともある。1回目の遠征なので大手を振って喜んではいけないだろう。
それでもこの釣果は紛れもない事実だ。
新たな可能性の片鱗。
今遠征での釣果は全て最終段階の
celldivisionのMサイズだった。
春の場所、夏の場所、秋の場所、冬の場所、細かい事は大して関係ない。どこでも自分が気になる時期、気になる場所にただ信頼できるルアーを信じて投げるだけだ。
そのモチベーションこそ最強なのだ。

そう、直感は経験で磨かれるのだ。
今起きている事は過去に自分が意思決定したことの結果だ。
最後は感謝を忘れずに。
ありがとう。
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